●「琉球語音声データベース」作成プロジェクト

琉球語音声データベース」は,琉球語の資料を文字情報だけでなく,琉球語の音声そのものもデータベース化し,琉球大学附属図書館のホームページ上で公開し,国内外の方言学,音声学,実験音声学などの分野の専門家が研究資料として利用できるように,また,琉球語に興味を持つ一般の人々にも楽しく,興味深く,気軽に利用できるようにすることを目的に,平成10(1998)年より3年間文部省科学研究費(研究成果公開促進費)「琉球語音声データベース」(研究代表者・琉球大学附属図書館長)を得て作成したものです。本データベースは,「今帰仁方言音声データベース」と「首里那覇方言音声データベース」のふたつのデータベースから成り立っています。

いずれのデータベースも,方言語形からの検索,日本語標準語からの検索,名詞,動詞,形容詞,副詞,感動詞といった品詞別の検索が可能な「品詞別検索」があります。またそのほかに,一部の単語については意味分野別の検索が可能です。また,本データベースには,言語学に関する専門的な知識を持たない方でも気軽に利用できる「一般利用者向けのページ」と専門家向けの「研究者ページ」があります。

データベース作成のための研究開発室が琉球大学図書館に置かれ,運営委員として,高良富夫(工学部 教授,音声情報処理),名嘉順一(教育学部 教授,方言学,1999年退官),狩俣繁久(法文学部 教授,方言学)の3名が参加しています。また,平成11(1999)年からは大胡太郎(法文学部 助教授,日本文学)が加わっています。

データベースのシステム・プログラム開発には(株)国際システム(沖縄県那覇市)があたり,文字データ入力は(株)スピア(沖縄県中城村)が行ないました。文字データの校正や方言の録音など,データベースの内容に関わる具体的な作業は沖縄言語研究センター(代表上村幸雄琉球大学名誉教授。沖縄県西原町琉球大学法文学部狩俣繁久研究室内)が行いました。また,首里・那覇方言の音声の録音には沖縄県立芸術大学附属研究所のスタジオを貸していただきました。⇒プロジェクト参加者

今帰仁方言音声データベース

今帰仁方言音声データベースは,仲宗根政善著『沖縄今帰仁方言辞典』の全項目の文字データとその見出し語と用例の音声とをリンクして,2000年4月からインターネット上で公開しているものです。 ⇒今帰仁方言トップへ

首里・那覇方言音声データベース

首里・那覇方言音声データベースは,国立国語研究所編『沖縄語辞典』の見直し作業と見出し語・用例の大幅な追加を行うと同時に,隣接する那覇方言を追加して新たに作成した首里・那覇方言資料の文字データに,見出し語と用例の音声をリンクしてインターネット上で公開するものです。  ⇒首里・那覇方言トップへ

琉球語音声データベースの意義

ことばは,単なる通達の手段であるだけでなく,思考の手段であり,ことばによって人の行動が規定されることがあります。イリマックヮということばを知っている人は,よそで寝るとき,どこに枕を向けるべきか気になり,無意識に枕の位置を変えることがあります。ことばを媒介にしない文化もありますが,ことばを媒介にした文化があり,文化をささえていることばがあります。ことばそのものが文化でもあって,琉球語は琉球列島のかけがえのない無形の文化財です。

しかし,今の子どもや若者は,沖縄に生まれ育ちながら,琉球語を話すことができないだけでなく,聞いて理解することもできなくなっています。琉球列島のシマジマに伝えられてきた多様なことばが消滅の危機に瀕しています。沖縄言語研究センター(代表上村幸雄琉球大学名誉教授)では20年以上も前から琉球語の危機的な状況を憂慮し,組織的な研究と記録保存の仕事をはじめました。

琉球列島のすべての伝統的な集落の方言を調査する「琉球列島の言語の研究」(1979〜1991),「那覇市方言記録保存調査」(那覇市教育委員会委託事業,1988〜1993),音声そのものを研究・調査し,記録保存する「琉球列島の音声の収集と研究」(1989〜1992)などです。そして,1998年から取り組んでいるのが,この「琉球語音声データベース」です。

かな文字に比べて国際音声記号は,音声の再現性が高く,重要な記録の手段です。かな文字では書き表せない多様な音声をもつ琉球語にとって,国際音声記号によって記録することはとても重要です。しかし,どんなに正確な音声記号でも実際の音声にはかないません。これまで実際の音声を多くの人が利用できるメディアで,しかも,大量に提供するのは困難でしたが,最近の技術革新はそれを可能にしました。ホームページを作ってインターネットを介すれば,誰でも,どこからでも,いつでも好きなときに,大量の単語を音声付きで引くことができます。とりわけ,文字に書き表しにくい音声を多くもつ琉球語の場合,この琉球語音声データベースは,ことばの記録保存の方法として優れたものだと思います。また,話者が高齢化し,減少していくとき,ことばの継承と学習の手段としても優れたものです。

沖縄言語研究センターが収集した方言資料や音声資料はまだ他にもありますし,琉球列島には,貴重な方言がまだまだたくさんあります。今後もこのデータベースをより充実したものにしていく予定です。